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午前4時の深海

  • violeet42
  • 2016年11月14日
  • 読了時間: 7分

 夢を見た。そう遠くはない昔の夢。まだ親友だった頃の夢。誰にでも優しくて、誰にも優しくなかったあの頃。大事なものも、そうじゃないものも、全部まとめて抱きしめていたあの子。平等でありすぎてしまえば、それはもう全部ただのガラクタなのに。

 特別を無視しないで。  誰にだって優しいあの子は、誰にも寄りかからない強さと誰にも頼れない弱さを抱えていた。

 卒業の日。式が終わって先を行くあの子の後ろ姿を見たとき、どうしても手を伸ばさずにはいられなかった。いつも私を後ろからそっと支えてくれていたあの子の背中はこんなにも細くて儚くて、

「すき」

 私の三年分の片想いを、たった二文字に乗せて口にしてしまった。  不意に出た言葉。言葉を尽くしてどれだけ好きかを伝えたかったのに、たくさんのものを削ぎ落として最後に残ったのは単純で簡潔な言葉だった。そして伸ばした手をあの子は、

 無機質な天井。  ぼんやりとした頭であたりを見渡せば、だんだんと意識がはっきりしてきた。夜明け前。空がうっすらと明るくて部屋が藍色に染められている。まるで深海みたい。朝と夜をたゆたう海の底はとても静か。  とても懐かしい夢を見ていた気がするのに思い出せない。なつかしくてやさしくてすこしさみしい夢。あどけない夢。

「ん……」

 隣で眠っている希がゆっくりと寝返りをうって私の方を向いた。素肌にシーツだけを身にまとった希は深海で眠る人魚みたいで、そっと顔を近づける。規則正しい寝息とそれにあわせて上下する胸。伏せられたまつげが影をつくり、少しだけ開かれた口元が私を誘うから、起こさないようにそっと希の下唇を舌でなぞって甘噛みする。そのまま唇の柔らかさを堪能していたらもっともっとほしくなって、我慢できずに舌を口内に差し入れた。

「ふ……ぅ……ん、」

 くたりと横たわる舌を引き寄せて絡ませて吐息ごとさらう。

「……ゃ、…ん……っ…」

 希が私の肩に手を回してシャツをぎゅっと握り締めて、名残惜しさを感じつつも少しだけ顔を離した。

「はぁ……えり、…な、ん…」 「のぞみだけ気持ちよさそうに寝ていたから」 「さっきねた、のに」

 いつも私より早起きだから知らなかった。

「まだねむい?」 「うん」

 数時間前につけた情事の名残を肩に見つけてそっとキスを落とせば、希がむずがる。

「のぞみ、」 「んん……や、だ…」

 不機嫌そうに寄せられた眉、かすれた声。寝起きの希はいつもよりうんと無防備で子供みたい。ゆっくりと手をシーツの中に滑り込ませようとしたらぎゅっと握られた。

「のぞみ、」 「さっきした、ばっかり」 「だめ?」 「きょうはもう、おしまい」

 そう言って希がシーツごと私を包み込んで胸の中に閉じ込める。柔らかな胸の感触、甘い匂い、あたたかな世界に閉じ込められて安心するのに、どうしようもないくらいその先がほしくなる。  もっともっとあなたがほしい。そっと手のひらで希の大きな胸を包んだら手の甲をつねられた。

「もう…ゃ……」 「すこしだけ、」

 シーツの海をもぐって希のおなかにたどり着く。

「へんなこと、せんで」 「寝てていいよ」 「だって、えりちが、」 「甘えたら、だめ?」

 滑らかなおなかに頬をすり寄せて子供みたいにじゃれついた。  私しってるの。希は私がこうやって甘えると、とても喜んで際限なく甘やかしてくれる。でも、私も、私だって、希に甘えてほしいの。

「5分だけ、やから」 「うん。」 「そしたら、いっしょに、ねて」 「うん」

 羽織っていたシャツを再びベッド脇に落とす。ぎゅっと腰を抱きしめて鼻先をおなかに押し付けたら、やさしく頭を撫でてくれた。頬に張り付いた私の髪の毛を希がそっと耳にかける。ちゅっとおへそにキスを落としたら希の腰が震えた。ちゅ、ちゅ、何度も口づける。

「も…っ…ええ、やろ……」 「まだ2分。」

 舌をのばしておへそをくるりと撫でたら、希がぎゅっとシーツを握りしめた。

「ゃ、……だ……ん…っ…」

 横向きになっていた希を仰向けにさせて、希の脚の間に自分の体を滑り込ませる。おへその窪みに舌を挿し入れて唾液で濡らした後、人差し指でゆっくり掻き回した。

「えり、ち…これ、やだ……ぁ…っ」 「どうして?」

 ふるふると首を振って希がむずがる。

「さわり、かた……っ…」 「見て。いつも指をこうするの。わかる?」

 いつもしてるみたいに、さっきしたみたいに、見せつけるみたいに掻き回す。片方の手で太ももを撫ぜて爪を立てたら、希が首に手を回してしがみついてきた。

「ずる、い」

 希が触れるだけのキスをした。閉じた瞳から涙が一筋こぼれる。人魚の涙はまっさらな真珠、はっとするくらいきれいで胸がいっぱいになる。

「もっと、」 「もっと?」 「さわって、…ほしい」

 やさしい希も好き。でも余裕のない強引なしぐさで甘えてくるあなたも知りたいの。

「ちゃんと、せきにんとって…っ」

 向かい合った状態で希を膝の上に乗せる。頬に添えていた右手を、指先を、下へ下へと這わせていく。首筋から胸の谷間を通って、おへそ、そしてさらに茂みへ。

「ぅ…ん、……あっ………ぁ」

 指でそっと触れた入り口は、もう十分すぎるほど濡れていて、張りつめた突起に愛液をぬり込むように動かせばくちゅくちゅと水音がかすかに響く。

「そ、こ……ぁ…ん……ぅ…」

 左手で希の柔らかな胸にそっと触れる。まだ触れてもいないのに桜色の先端が硬くなって主張していたから、我慢できずに舌をのばして吸いついた。

「のぞみはいつも、甘い匂いがするの。とくに胸元から、」

 口の中でころがしながら深く息を吸い込んだら、体中が希で満たされているような気分になる。

「はずかし、ぁ…から……や…っん…」

 希は口の中で先端を甘噛みされるのが好き。カリッと柔く歯を立てて舌で撫ぜれば、弓なりに背中を反らせて胸を私に差し出しているような形になって、もっともっととねだられているみたいで嬉しくなる。

「も、…えり……っ…ぁ……」 「なに?」 「もう、おねが…い……んっ………」

 入り口の突起をゆるゆると撫でていた私の右手を希が掴んだ。

「……さいごまで、」 「ほしい?」 「う、ん」

 希がほしがってくれる。甘えてくれる。あなたの本音が泡となって消えないように。  入り口はもう溶けるくらいとろとろで、指を2本いっきに挿し入れた。希の中は熱くて気持ちよくてゆっくりと奥を探る。

「あ、…んっ……ふ…ぅ……」

 私の首に腕を回して痛いくらいに抱きしめてくる希が愛おしくてたまらない。希の息遣いが耳元に直接響いて熱に浮かされたみたいに頭がくらくらする。

「のぞ、み…っ」 「はぁ……えり、……ぁ…ん、んっ…」

 指の速度を早めて奥へ奥へと激しく動かせば、希が小さく震えて静かに果てた。

「はぁ……はぁ…っ……は…、」

 ゆっくりと震えが収まるのを待って、中からそっと指を引き抜く。

「ん…っ………」 「つかれた?」

 力が抜けてぐったりした希を胸に抱いてそっと頬を撫でたら、閉じていた目をあけて希がじっと私を甘くにらむ。

「いややって、言ったのに、」  そっぽを向いて私の胸に顔をうずめるから、かわいくてかわいくてどうしようもない。

「だってしょうがないじゃない」

 足元でくしゃくしゃになっていたシーツを引き寄せて広げて二人ごと柔らかく包み込んだ。

「人魚みたいにきれいだったの」

 希が驚いた顔をした後、恥ずかしそうにうつむく。 愛しさが溢れてまぶたにそっとキスをすれば希があたたかい眼差しを私に返す。  あなたへの想いをあきらめなくてよかった。あなたとこんな風になれるなんて、すきなひとが恋人になるなんて夢にも思わなかった。私の人魚は泡になって消えたりしない。

「じゃあ、うちは、泡になって海に消えるん?」 「ううん。消えるんじゃなくて、溶けるの」 「溶ける?」

 藍色に染まる部屋は、朝と夜をたゆたう深海。シーツに包まれて二人は顔を寄せて見つめ合う。

「私の瞳は何色?」

 私を特別にしてくれてありがとう。あなたが特別でよかった。私が伸ばした手を、信じて握りしめてくれたから今の私たちがいる。 しばらく考えて希が幸せそうに笑った。

「きれいな海の色」

 どうか私の海に溶けてほしい。

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