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ホウレンソウは正しくね

  • violeet42
  • 2016年11月14日
  • 読了時間: 12分

 新社会人として働き始めてもう4ヶ月。仕事にも慣れてきて少しずつできることが増えてきた。目覚ましの電子音に起こされてぼんやりする頭をなんとか覚醒させる。お弁当を作って朝食を食べて歯を磨いて化粧をして着替える。もうすっかり気持ちが仕事モードに切り替わって弾んだ気持ちのまま玄関のドアを勢いよく開けた。ああ今日もあの人に会える。

改札を通って階段を駆け下りたところで人の行き来を邪魔しないように広告の壁にもたれかかっている絢瀬さんを見つけた。日にあたってきらめく金髪に目鼻立ちの整った顔、そしてモデルのような抜群のプロポーション。みんなが絢瀬さんを一瞥していく。心の中で少し複雑な気分になりながら近づいていくと、うちに気づいた絢瀬さんが一瞬だけ嬉しそうに顔を綻ばせたかと思うと慌ててクールな顔に戻ったから可笑しくてふきだしてしまった。

「ちょっ…絢瀬さん、」 「希、じっとしてて」

 すし詰め状態の電車の中、前科があるからと毎朝絢瀬さんとドアの間に挟まって通勤するのがお決まりみたいになっている。うちのことを心配してくれるのはありがたいけれど、

「ちょっとひっつきすぎやない?」 「そんなことないわ」

 淡々とした声で返されるけれど、明らかに絢瀬さんに抱きしめられているのは事実で。いくら混雑して周りからはわからないとはいってもこれはちょっと。

「絢瀬さん、手」 「え?」 「おしりさわってるやろ」 「そんなわけ、いたっ」

 きりっとした表情で絢瀬さんが凄んできたけど、イタズラな手を抓ったらようやく解放してくれた。

「だめって言ってるやろ」 「だって、」 「決めたやん。約束」 「うぅ…」

 満員電車からようやく解放されてホームを歩きながら、さっきの絢瀬さんの痴漢行為を改めて問いただした。

「…悪かったわ」

 しゅんと項垂れる絢瀬さんはちょっと可愛いけれどやっぱりメリハリはつけるべき。 うちと絢瀬さんが交際する上で取り交わした約束はふたつ。 その一、社内では上司と部下の関係を絶対に崩さない。そのニ、お互いをよく知って大切にするためにスキンシップはキスまで。ひとつめの約束は絢瀬さんもすぐに納得してくれたのに、ふたつめの約束は少しだけ不服そうな顔をしていた。けれどやっぱりお互いの気持ちをもっと確かめ合ってから体のふれあいに進むべきだし、焦るようなことではないから。

「それじゃあ、あとで、」 「はい」

 改札を出て駅の出口付近で絢瀬さんがうちを追い越す。ここからは少し厳しい上司の時間。あれだけ仲がぎくしゃくしていた二人が急に仲良くなるのも不自然だから。颯爽と前を歩く絢瀬さんの背中を見つめながらゆっくりと会社へ向かった。

 これじゃだめ。さっき言ったでしょう? 言われた事をちゃんとやってくれる? 少しは自分で考えて。ちゃんと報告して。

 1ヶ月前とお叱りの内容がほとんど変わっていない。会社の外ではあんなに情けないのに仕事モードになると絢瀬さんは容赦ない。だけど、約束を守って変わらない態度で仕事を教えてくれる絢瀬さんはかっこいいし、それにたまにはフォローも入れてくれるようになった。

「がんばったわね。お昼にしていいわよ」 「ありがとうございます」

 ようやく資料の制作が終わって昼食をとろうと立ち上がったら絢瀬さんから1通のメール。

<いつもの場所で>

 昼食はいつも絢瀬さんと公園で食べるのが日課になっている。会社の人たちは繁華街の方へとランチを食べに足を伸ばすから、この静かな公園は人の目を気にせずゆっくりできる。

「ごちそうさま。今日も美味しかった」

 作ってきたお弁当をぺろりと平らげた絢瀬さんは柔らかく笑ってお礼を言ってくれる。早く起きて二人分のお弁当をがんばって作るのはきっとこの瞬間のため。木陰のベンチに並んで座って食後のお茶を飲んでいたら、絢瀬さんがそっとうちの肩に頭を預けてきた。

「あ、あの、」 「うん?」 「そ、その、の、希…」

 絢瀬さんがなかなか言い出さなくて不思議に思って首を傾げて顔を覗きこんだらガチッとうちの唇に絢瀬さんの歯が激突してきた。

「っ……」 「ご、ごめんっ」

 痛みで思わず口元をおさえたら絢瀬さんがおろおろしだした。

「もう。キスしたいなら先に言わんと」 「う、その、はずかしくて」

 なんで上司の絢瀬さんはあんなにかっこいいのに、恋人の絢瀬さんはこんなにもたよりないのだろう。

「キスならええから」 「う、うん」

 絢瀬さんの緊張した顔が近づいてきたから口元を覆っていた手を離せば絢瀬さんがピタリと静止した。

「なん?」

 疑問に思って尋ねた瞬間にぺろりと下唇を舐められた。

「ちょっ……ふぁ…ん、」

 このまま口をこじ開けられて歯列をなぞって、舌を絡めとられる。激しく口づけられながら絢瀬さんの手がうちの胸をさわさわとさわりだしたから体がこわばった。

「む……んっ…んん、いやっ」

 絢瀬さんを引き剥がすために両腕を突き出したらようやく離れてくれた。かすかに血の味がする。

「いややっていったやん! なんで約束守れんのっ」

 お互いを大切にするって約束したのに。

「の、希の唇から血が出てて、舐め取ったらその…思わず興奮して…あ、あの、ごめん…」 「そんなの関係ないやろ! なんで我慢できんの…」

 いくら会社の外とはいえ公園であんなことをするなんて信じられない。そうしてそんなに焦って先へ進もうとするの? 普通ならもっと時間をかけていくべきなのに。

「絢瀬さんはうちの身体が目当てなん?」 「そっ、そういうわけじゃ…」 「だって、朝も注意したやろ」

 絢瀬さんがうつむいて泣きそうな顔をするから思わずため息をついてしまった。

「希、嫌いになった…?」 「なっとらんよ。でも、絢瀬さんにはもうちょっといろいろ考えてほしい」

 絢瀬さんには少し頭を冷やしてほしい。もっと慎重に段階を踏んでいきたいから。

「あの、絢瀬さん、この書類なんですけど、」 「これが終わったら確認するわ」

 午後の絢瀬さんは昼食のことはなにもなかったかのように上司モードに切り替わっていたから心の中でほっと胸を撫で下ろした。あんなことがあったとはいえ仕事に支障が出てはいけないから。追われるように仕事をこなし、定時の放送が流れてようやく仕事から解放された。最近は要領が少しずつよくなってきて絢瀬さんから残業を言い渡されることが少なくなった。  駅で待ち合わせて絢瀬さんと一緒に帰ろうとメールを送ろうとしてやり残した仕事があったのを思い出した。すぐさま絢瀬さんに今日は先に帰ってと送信する。明日のミーティングのための資料の仕分けを他の先輩に頼まれていたのをすっかり忘れていた。他の人がぞろぞろと帰っていく中、ふと奥のデスクを見れば絢瀬さんが残業していた。

「絢瀬さんも残業ですか?」 「ええ。データ入力が終わってないから」

 こちらをちらりとも見ずに冷たく言い放つ絢瀬さんにすこしだけムッとしてしまった。もうオフィスに残っているのは二人だけなのに。カチャカチャとキーボードを打つ音がオフィスに反響する。ちらりと音のする方を見ればいつからみつめていたのか、絢瀬さんがさっと目をパソコンの画面に戻した。

 40分ほどで資料の仕分けは終わったけれどあえて絢瀬さんにはなにも言わずにおいた。さっきから挙動のおかしい絢瀬さんを問い詰めるために、いきなり立ち上がって急ぎ足で絢瀬さんのデスクに向かう。そしてさっと身を乗り出して絢瀬さんのパソコンの画面を見たら、メモ帳に意味のない文字の羅列が延々と打ち込まれていた。

「これって、」 「しかたないでしょっ」

 状況がつかめなくて説明してもらおうとしたら絢瀬さんに泣きそうな顔で睨まれた。

「お昼にあんなことがあって、今日は先に帰ってって言われたら…不安になるじゃない……」 「だから残業が」

「身体だけが目当てじゃないもん!」

 絢瀬さんがぼろぼろと涙を流して悔しそうに顔を歪めるからびっくりしてしまった。

「お昼のことはもう怒ってないから、」 「コントロールできないの…」

 泣き出す絢瀬さんをなんとか宥めようと肩に手を置けば絢瀬さんがぎゅっと握りしめてきた。

「大事にしたい尊重したいって、いろいろ考えてるつもりだけどっ…希をいざ目の前にすると、気持ちが溢れてくるのっ 希の気持ちも尊重したいけど、好きだから身体も求めちゃうし…希の身も心も好きだから、私はっ…そばにいるだけで満足だなんて、とても言えない…っ」

 涙できらきら光る眼差しで、絢瀬さんのありのままの想いを伝えられて頬を打たれたような感覚がした。お互いの気持ちを確かめ合おうとしなかったのはうちの方だった。いくら慎重になって時間をかけたって、自分の気持ちばかり押し通そうとするのは相手をないがしろにしていることと変わらない。心だって通じ合えていないなら意味がない。

「情けないわたしで、ごめん…なさいっ」

 きっと、いっぱいいっぱい我慢させてしまってた。臆病なのはやさしいから。頼りないのはきっとうちが好きで好きでどうしようもないから。こんなに簡単なことだったのに。

「うち、絢瀬さんが好きで好きでどうしようもない…」 

 椅子に座った絢瀬さんの膝に跨がって向かい合うようにして抱きついたら耳元で絢瀬さんが鼻をすする音が聞こえた。

「ごめんな」 「わたしも、わがままでごめん…っ」 「ううん。うちらはきっとわがままを言い合うべきやったんよ」

 そのまま二人で泣きじゃくりながら子供みたいに笑い合った。この大切な人のことをもっともっと知りたい。

「絢瀬さん、」 「うん?」 「約束、やぶってもええよ」 「え?」

 向かい合って密着したまま絢瀬さんの手を胸の上に置いたら、絢瀬さんが勢いよく椅子ごとひっくり返った。

「っ…もう、いたいやんっ」 「ど、ど、どっ、どうしてっ」

 打ち所が悪かったのか、鼻をおさえている指の隙間から血がでていた。

「鼻血やんっ、絢瀬さん大丈夫?」 「大丈夫大丈夫! 問題ないから!」

 心配してそばに寄ろうとしたら絢瀬さんに距離をとられた。よくみれば顔が真っ赤で目が泳いでいるから、

「……興奮したからでたん?」 「だっ、だって!あんな、いきなり…」

 あんなに隙あらばさわってたのに、いざ差し出されるとこんなに慌てて。

「うちも」 「え?」 「うちも、絢瀬さんの身も心もほしいから」

 じっと見つめながら口にしたら、絢瀬さんがばっと勢いよく立ち上がってあとずさりしたからじりじりと距離を詰める。そのままうちのデスクまで追い詰めて、腕で囲って逃げられないようにする。

「こ、ここ会社だけど、」 「さきに約束やぶったのそっちやもーん」 「心の準備とか…」 「身体は待てないっていってるんとちがう?」

 あまりにも絢瀬さんの往生際が悪いから唇まで垂れてきた血をぺろりとなめとってそのまま口づける。

「んっ……」

 そっと舌を差し込んで奥に逃げた舌をつかまえて絡みつけば絢瀬さんもだんだんと積極的になる。

「んむ……ふぁ……んっ」

 息がきれそうになるまでお互いの口内を探りあって口の端から唾液が伝い落ちる。

「はあっ…はぁ、はぁ…」

 上がる息を整えていたら、絢瀬さんに腕を引っ張られて机に押しつけられて立ち位置が逆転した。

「も…おあずけされても、とまらないから、」

 熱い眼差しで見つめられて身体が粟立つ。そんなも顔するなんてしらなかった。ジャケットもシャツもそのままにボタンだけを焦れるようにはずしていく絢瀬さんの指がすごく艶かしくてぎゅっと目を閉じた。そのままそっとシャツを開かれて絢瀬さんの指が止まる。

「希、紫なんてえっちな下着もってるの?」 「そんなんっ、うちの、あっ…勝手、やん」

 ブラのレースの縁をなぞりながら絢瀬さんがうちの耳元で囁くから頭が沸騰しそうになる。そのまま、首筋を舌で這うようになぞって甘噛みされた。

「は……あ、んっ」

 さわさわとお腹を撫でていた手が上へと伸びてきて、ブラを一気に押し上げた。

「もっ……そんな、見んといてっ」

 明るいところで見られるにはあまりにも恥ずかしくて手で隠そうとしたら両腕を机に押しつけられた。

「希の乳首が、さわってないのにこんなに赤くなって…」

 絢瀬さんの舌がうちの乳首をころがしてちゅっと口に含まれた。

「ふっ…う……ん、ん…」

 胸元を見れば絢瀬さんが熱に浮かされたような顔でうちの乳首に夢中になって舌を這わせているから身体が一気に熱くなる。

「あっ…んぅ……んっ」

 絢瀬さんと目があって恥ずかしくて顔をそらしたら強めに乳首を噛まれて刺激が走る。

「はぁっ…希の、かわいい…」

 絢瀬さんは自分の唾液で濡れたうちの乳首を指でつついてなかなか先に進んでくれない。

「もっ、お願い…やからっ」

 我慢できなくなって絢瀬さんの手をとって下へと誘導したら、するりと何度も太ももを往復しながら撫でさすされる。絢瀬さんが爪をたてるからストッキングがぴりりと電線して、まだらに肌があらわになった。

「ずっとずっと、こうして希の身体をさわりたくてさわりたくて我慢してた。希の身体はどんなに柔らかいんだろうって眠れなくなる日もあって、希の全部が知りたかったの…っ」

 泣き笑いみたいないろんな感情がない交ぜになった顔で絢瀬さんが見つめるから胸が熱くなった。

「うん。我慢せんでええから。うちも絢瀬さんに、絢瀬さんだけにしかさわってほしくない」

 ぎゅっとうちを抱きしめながら絢瀬さんの右手がうちのスカートの中を探って、下着の隙間から指をさし入れる。

「はぁ、…あ、あ…んっ」

 これ以上ないくらい濡れているのは自分でもわかる。くちゅくちゅと絢瀬さんの指が入り口を浅くかき回すたびに水音が響く。

「あっ、あや…せ、さ……あっん…」

 これ以上ないくらい張りつめている突起を何度もこすられてイきそうになった瞬間、絢瀬さんの指が止まって焦らすから、もうわけがわからなくなって涙がいっぱいこぼれてきた。

「も、なんで…ちゃんとして……」

 くるしくてせつなくて自分から腰を動かしてしまう。

「はあっ……のぞ、み…っ…」

 うちを力いっぱい抱きしめながら絢瀬さんが2本の指を一気にうちの中にさし入れてめちゃくちゃに動かす。

「あっ、あっ…もっ、あ……んんっ」

 絢瀬さんがうちの中で擦るように指を奥まで突き上げた瞬間にぞくぞくと背中から全身へと快感が広がって頭が真っ白になった。

「ぁっ、はぁっ、はぁ…はあっ」

 指をそっと引き抜かれて身体がびくりと反応する。

「の、のぞみ…その、きもちよかった?」

 余韻の残る身体がを鎮めようと上がった息を整えていたら絵里がおずおずときいてきた。

「うちを…こんなにしといて、きくん?」 「だっ、だって、夢中で…その、がっついちゃった、から…」

 肉食獣みたいな絢瀬さんはもうすっかりいなくなって、今はかわいいかわいい絢瀬さん。

「絢瀬さんのベッドやくざ…」 「そ、そんなっ…いや、その、…きらいになった?」 「泣き虫で鼻たれで鼻血まで出しちゃう絢瀬さんも、全部好きになるしかないやん」

 今日も明日も明後日もうちの知らない、いろんなあなたを教えてほしいの。

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