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世界を閉じ込めた夜に

  • violeet42
  • 2016年11月14日
  • 読了時間: 8分

※ふたなり注意

「はじめまして、絢瀬さん」

 にっこり笑って差し出された手を、私は握り返すことができなかった。この穢れを知らない綺麗な手に触れてはいけない。触れてしまえばきっと、

 希に初めて出会った時、希という存在を認識した瞬間から私の世界がめまぐるしく動き出した。それなのに出会えたという歓喜よりも、出会ってしまったという畏怖のようなものを感じて立ちすくんだ。女神のような尊いこの人を、私が愛してもいいのか。まるで信仰にも似たこの想いを胸に秘めて、私は敬虔な希の虜になった。

 窓の外からかすかに雨音がする。  夜の雨は好きじゃない。どこにも行けない気がするから。拘束されて身動きがとれなくて、置き去りにされたような気分になるのがとてもさみしい。

「あ……はぁ……んっ……ぅ…」 

 果てる時にはいつも目をぎゅっと閉じる。懺悔をするように、祈るように視界を遮る。自分を慰める度にいつも希を思い浮かべてしまうのは間違いなく罪だ。

 夜の雨はだから嫌い  さみしい  苦しい  あの人がほしい

 戻ってきた理性を掻き集めたら、すぐに立ち上がって自分の欲で汚れた手を洗面所で洗い流す。こんなことが希に知られてしまったら。私の醜さが露呈してしまったら。絶対に手の届かない存在だと思っていた希から告白され、想いが通じ合ってうれしくて幸せなはずなのに、それでも希は恋人であると共に私の女神だから。

 何度も何度も手を洗う。穢れた手に染みついた罰はどうしても落ちない。

 行き場のない静かな部屋にインターフォンの音が鳴り響いた。こんな雨の夜に誰だろうとドアを開ければ、

「えりち」

 さっきまで私が頭の中で穢していたその人が、ずぶ濡れになって立っていた。

「希…っ…どうしたの?なにかあったの?」 「ううん。急にえりちに会いたくなったから。何も考えずに来てしまったんやけど、」 「それなら連絡してくれれば私が会いにいったのに」

 濡れた髪の毛から頬を伝って首筋へと水滴が滴り落ちる。こんな雨の中を傘をささずにここまでやってきた希はいつもと様子が違っていた。張り詰めた空気をまとって、それを持て余しているように見えた。

「うちが会いたかっただけやから」

「うん…。でも車で送っていくわ。今日はもう遅いから」

 すこし寒そうに自分の肩を抱きしめる希に温めようと手を伸ばそうとして、すんでのところで手を止めた。希が会いに来てくれたことは飛び上がるほど嬉しい、けれどうまく言葉にできない。あんなことをした後に希を招き入れるなんて出来ないから。

「会いたかったのは、……うちだけやった?」

 悲しそうに微笑んで控えめに希の手が私のシャツの端を握る。そんな顔をさせたいわけじゃないの。私はただ希を大切にしたい。

「そんなわけ、ないじゃない」

 そっとドアを大きく開いて希を中に招き入れた。

「お風呂、ありがとうな」

 首にかけたタオルで濡れた髪を包みながら、先ほどよりも血色の良くなった希がリビングに戻ってきた。

「体は温まった?」 「うん。おかげさまで」

 大きめのパーカーにショートパンツという希の格好は私が貸した着替えで、その下に私がさっきコンビニで買ってきた下着を身につけていると思うと顔に熱が集まるのを感じた。

「こんな遅い時間にえりちと一緒におるなんて、なんか新鮮やね」 「そうね」

 どうしてこんな夜に。  ソファの端に縮こまって読書をする私の隣に希がそっと腰を下ろした。全神経が横にいる希に集中してしまう。ショートパンツからのぞく艶かしい太ももが視界に入って、慌てて活字の方に目を向けた。何度も何度も同じ行を目で追っているのに物語がまるで頭に入ってこなかった。こんな状況の中でどうすればいいかわからない。愛しい人が隣にいるのに、邪な想いばかりを抱いてしまう私は最低だ。希はまっさらで尊くて無垢な存在なのに。

「雨、さっきより激しくなったなあ」

 静寂と雨音。そして希の柔らかな声。  この空間にはすべてが揃っていて、すべてが私に相応しくない。この人の隣にいることを許されている、という事実が、いまだに信じられない。

「うちな、夜の雨が好き。どこにもいかずにここにいてもええよって言われてるみたいやから。やさしく閉じ込められて、世界がひとつの部屋になったみたいでさみしくないんよ」

 希のやさしい声が雨音に溶けて私の鼓膜を震わせる。

「私は、閉じ込められるのは嫌い」 「それはえりちが独りだと感じるから」

 横にいる希がそって距離をつめて、私の手の上に自分の手を重ねてきたからとっさに振り払ってしまった。

どうかその綺麗な手で私に触れないで。私は自分の欲に抗えないどうしようもない人間なの。

「ごめん、なさい。あの、びっくりしただけから。だからその…もう寝ましょう?希はこのソファを使って、」 「えりち」

 混乱して矢継ぎ早に思いついた言葉を口にすれば、希の静かな声に静止された。立ち上がろうとした私の肩を希が押さえつけてそのまま膝に跨ってきた。

「いや…っ…希、はなれてっ」

 希の熱が、柔らかな感触が、希が私に触れていることに耐えられない。希が穢れてしまうのがいやだ。私が穢してしまうのがいやだ。突き放そうとしたら希に両手を掴まれてソファの背に押し付けられた。

「そうやって…うちのこと、いつも避けるんやね。そんなにうちがこわい?それとも嫌いになった?」 「ちが、…っ…」

 どうしたらこの状況から抜け出せるのだろう。私はこんなこと望んでいない。望んではいけない。なのに。

「なあ、えりちがうちに触れてこないのは、うちが汚ないからやろ、」 「ちがう…っ!私が……汚ないのは、穢れているのは私。希は、真っ白で純粋無垢で、私にはもったいないくらい尊くて、」

 いつもとは違う口調で希が私を追い詰めてくる。時折見せる悲しそうな笑顔で私に笑いかけて、着ているパーカーのジッパーをゆっくりと下までおろした。渡したはずの下着を身につけていなくて大きな胸が露わになる。

「必要ないから。下も履いてないんよ」 「こんなこと、…やめて」

 いきなり手を取られて希の胸に導かれた。信じられないくらい柔らかな感触と薄紅色の乳首が手のひらの中で硬く主張して否が応でも熱が集まってくる。なんとか希の胸から手を引き剥がしたら、希が私の足の間で床に膝をついて私のズボンを下着ごとずり下ろした。

「やめっ……見ない、でっ」 「こんなになっとるのに、やめるわけないやろ」

 熱く隆起した私のモノを希の綺麗な手が包みこんで上下に動かす。

「あっ、あ……や、…はぁ……っ」

 赤くなった先端の割れ目を希の舌がねっとりと舐め上げて、あまりの気持ちよさに希の頭を押さえこんでしまう。

「もう…あ…っ…でな、い……ん…からっ」 「もうってことはさっき一人でしたん?そう…だからちょっと蒸れてるんやね」

 口に含まれて熱い舌が絡みついてくる。希が、希を、希に、こんなこと、

「一人でする方が気持ちええの?うちを思い浮かべてしてくれた?」 「もっ……や、…あ…っ……」

 ちゅっと先端に口づけたあとに、希は立ち上がってショートパンツを脱いで再び私の膝に跨ってきた。

「やだっ……やだやだ…っ…のぞ、み…」

 はちきれそうに硬くなった私のモノを入り口の割れ目にあてがって前後に擦り付けてきた。希の入り口は十分に潤っていて太ももに愛液が垂れてきている。

「ごめんなあ…んっ……こんな、やらしい…女、で…」 「希が、よごれ…る、から……あ、んっ…もう……あっ……」

 先端にはりつめた希の粒がくちゅくちゅと擦り付けられてお互いのモノがどんどん硬くなっていくのがわかる。もうなにも考えられなくてぎゅっと目を閉じたらそのまま射精してしまった。

「はぁ……はっ…ん……いっぱい、でたやん」 「はっ…はあ……はぁ、こんな……もう、」

 まともに希の顔を見ることが出来ない。希を穢してしまった。私の欲で塗りつぶしてしまった。ずっと綺麗なままで、大切にしたかったのに。

「こっち見てや……っ」

 希の手が私の顎をおさえて上に向ける。希を見ればぐしゃぐしゃの泣き顔で私を見つめていた。

「うちは…えりちの思うような人間やない。綺麗でも純粋無垢でもない。汚いしずるいし、こんな卑怯な方法でしかえりちを繋ぎとめられんかった……ごめんなさい」

 私の肩をぎゅっとつかんで苦しそうに泣く希は、ただの女の子だった。私が勝手に理想を押しつけて、一人で閉じこもって目を塞いでいる間に、希をたくさん傷つけていた。

「お願いやから…っ…自分だけが好きやなんて思わんで。うちもえりちがすき。そばにしてほしい。さわってほしい。目を逸らさずにうちをちゃんと見てほしい」

 それでも好きでいてくれた希は、こんな私を見捨てないでいてくれた希は、理想なんかよりもずっとずっと愛しくてぎゅっと抱きしめた。

「ごめんなさい……ありがとう」

 目を逸らさずに私を見てくれて。

「ずっと希に負い目を感じてたの。私みたいな人間が希に釣り合うはずないって思って、いつかこの幸せが終わるのがこわかった。本当に好きだから…大好きだから…っ…」 「うちも、えりちの嫌いなところもぜんぶぜんぶ好き。二人で補い合って、二人で幸せになりたい」

 肌の温もりがじんわりと心まであたためて、涙が出た。  静寂と雨音。希の柔らかな声。そして温かい心。この空間にはすべてが揃っていて、すべてが私を満たしてくれる。

「私ね、希のこと、女神だと思ってたの」 「そうなん?」 「でも実際は可愛くてえっちな女の子だった」 「がっかりした?」 「ううん、もっと好きになった」

 お互いの泣き顔をみて二人で笑い合う。このままずっと見つめていたい。どんなあなたも見逃したくないから。

「いまさらやけど、」 「うん?」 「ちゅーしたい」

 本当に今更、恥ずかしそうに顔を赤らめる希が可愛くて可愛くて返事もせずに触れるだけのキスをした。

「んっ………もう、いきなり」 「いやだった?」 「もっとして。それに、あの、えりちのがまた大きくなっとるみたいやから今度は最後まで、な?」 「明日は二人で寝坊ね」

 もっと見つめもっと触れてもっともっとそばにいたいの。  夜の雨が私たちをやさしく閉じ込めるから、そのまま雨音に溶けるように抱き合った。

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