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あなたから熱くなれ

  • violeet42
  • 2016年11月14日
  • 読了時間: 16分

ほんとうの物語をおしえて 4

「んっ……えりち、」 「裾、ちゃんと持ってて」 「んっ…ぅ……ごめ、ん…っ」

 ブラウスの裾を希に持たせて、ブラを押し上げて真っ白な胸を露わにする。そして桜色の先端に顔を近づけてゆっくり吸いついた。

 日課になっている小説の執筆にとりかかっていて段々と集中力が切れてきた絶妙なタイミングで、希がコーヒーを持ってきてくれた。

「邪魔してごめんな」

 マグカップをテーブルに置いた希の白い手首がいやに目について、なにも考えずに掴んだ。

「どうしたん?」

 希が首を傾げて私を見つめてくる。  きっとどうかしている。希の一挙一動に目が離せない。そのまま手を引き椅子に腰掛けた状態で向かい合わせになって、私の膝の上に希を跨がせる。

「はぁ、…んっ、んっ」

 ちろちろと唾液を絡ませて舐めればぷっくりと先端が主張して赤く張りつめる。もうどれくらいこうしているのかわからないけれど、希は絶対に「やめて」とは言わない。

「声、ちゃんと出して」

 いつも私が唐突に仕掛けて、希がそれに黙って従う。

「あ、ぁっ……ん、ぅ」

 これは奉仕。間違っても思いやりや愛しさや優しさを滲ませてはいけない。希の心まで求めてはいけない。私が無理矢理行為を押し付けてはじめて成立する関係だから。希が私のそばにいてくれるのなら手に入れるのは体の熱だけでもいい。想いを告げればきっとなにもかも消えて失われてしまうから、自分の手から大切なものがすり抜けていかないように奪うことを選択した。  笑顔を守りたいなんてただの綺麗事でしかなかった。希の気持ちを塗りつぶして私のものになってくれるならそれでいい。憎まれてもいい。私を強く想ってくれることに変わりはないから。

「ぁ…っ……」

 これ以上ないくらいにたちあがった先端をすこし強めに歯を立てれば、希がひときわ大きな声を上げてしがみついてきた。赤く鬱血した先端を口に含むのをやめて顔を離す。胸の谷間の方へと移動して深く息を吸い込めば希の存在を強く強く感じることができた。そのまま口づけて私だけの紅い印をいくつも刻みつける。

「脚、もうすこし開いて」 「はぁ……ん、」

 スカートをたくし上げさせて、真っ白な下着の上から爪でひっかくようになぞればすでに突起が布の上から主張していた。

「そのまま広げてみせて」 「んっ……」

 希の指がおずおずと下着をずらして突起がよく見えるように広げた。そこはもう十分すぎるくらい赤く充血していて、なんのためらいもなく中指をさし入れた。

「くちゅくちゅしてる」 「はぁ……あっ…ぅ……んん」

 希の中はとても温かくきつく締めつけきて、入口付近をゆるゆると掻きまぜればどんどん蜜が溢れてくる。

「もどかしい?」 「んっ…ぅ」 「自分で動いて」

 力があまり入っていない希は私の首にしがみついて慎重に腰を上げて中指が引き抜かれるぎりぎりのところでまた腰を沈めて。ゆっくりと繰り返す。

「あっ、ぁ、ぁ……ん、あっ」

 段々と動きが早くなり堪えきれなくなって中指を奥まで突き立てたら希の中がビクビクと痙攣した。

「はぁ……っ…はぁ……は…っ…」

 指を引き抜かずそのまましばらく抱き合ったままでいたかったのに、希は息を整えた後すぐに私の膝の上から離れた。乱れた服をあっという間に整えて希はにっこりと笑う。

「ごめんな、重かったやろ。コーヒー冷めてしもうたからまた淹れてくるな」

 まるでなんでもないみたいな顔をして部屋を出て行った。 あたたかくて柔らかい身体を暴いても暴いても希の心にふれることができない。

 一線を越えてごめんなさい。ないがしろにしてごめんなさい。もてあそんでごめんなさい。ごめんなさい。愛しているの。

 お風呂上がりに寝室でくつろいでいたら着信が鳴った。相手を確認すればにこで、すこしうんざりしながらもすぐに通話ボタンを押す。

「ひさしぶり」 「珍しいわね」

 電話口からはにこの同居人の声がして、意外な相手に驚いた。

「この前体調くずしたんだって?」 「ええ、ちょっと」 「にこちゃんがもっと頼ってくれればいいのにって拗ねてたわよ」 「善処するわ」

 どういうつもりなのかわからなかった。真姫はこんなことを言うためにわざわざにこの携帯から電話をしてくるような相手ではない。いつもはっきりと物を言う彼女らしくもなく、何かを伝えることを躊躇っているような気配がした。無言のまま少しだけ間があいて、真姫が戸惑うように口を開いた。

「今、近くに希さんいる?」 「いないわ」 「ちょっと言いにくいんだけど」

 珍しく慎重に前置きをして真姫が続ける。

「もう随分希さんって記憶を失ったままじゃない?」 「ええ」 「なんていうか、そろそろ本格的に調べた方がいいと思うのよ」 「どういうこと?」

 希に聞かれてまずい話とは思えなかった。一体真姫はなにを気にしているのかわからない。

「わたしの知り合いに腕のいい探偵がいるの。だから頼めばなにかわかると思うわ」 「そう。でもなぜ希が近くにいないか確認したの?」 「にこちゃんが絵里が希さんと同居してから良い方向に変わったって言ってて、それで…」

 もういい。もう言わなくてもわかる。真姫は私を心配して電話をかけてきたのだろうけれどこれ以上踏み込んできてほしくなかった。

「もし、希さんの過去になにか特別なことがあったらって心配してるの。今の希さんにとって良くないことだったらいきなり本人に伝えるのは酷なことだろうから」 「そう」

 何度も考えては目をそらしてきたことを突きつけられてなにも言えなくなる。

「だから、探偵の連絡先送っておくから。とりあえずどうするかは絵里が決めればいいと思う」 「わかったわ」 「それじゃあ…、え? なによそれ、まあいいけど。あの、にこちゃんに代わるから」

 電話を切ろうとしたら今度はにこが真姫と入れ替わりで電話口に出た。

「にこが喋ると余計なことまで言いそうだから真姫ちゃんに電話してもらったんだけど、やっぱりにこも喋るわね」 「なに?」 「探偵の件は希さんを心配してだけど、一番は絵里が心配なのよ」 「なにが」 「絵里がちょっとずつ人を受け入れるようになったのは希さんのおかげだと思う」

 自分ではよくわからない。ただ私は、他人のことなんてどうでもよくて、希のことで頭がいっぱいなだけ。それだけしか今は考えられない

「だからにこから言い出しといてなんだけど、希さんの過去で絵里も傷つくなら、傷が深くなる前に心の準備をした方がいい気がしたのよ」

 心の準備。いったいどんな準備をすればいいんだろう。そんなことをしたところできっと結果は同じで、なにかを失うだけ。とっくに境界線を越えていて、引き返すには遅すぎた。

「それだけ?」 「え?」 「にこ達が色々と気を回してくれたのはありがたいけど、この件は希と2人で話し合うから心配いらないわ」

 誰にも口出しされたくない。たとえそれが親切心からくるものだとしても。希を失ってしまうくらいなら他のものはなにもいらないから、どうか私を放っておいて。

「にこたちはただっ……いや、わかったわ。絵里達が決めることだから」 「ええ。それじゃあ」

 素早く通話を切った。ベッドに腰掛けたままじっと床を見つめる。希の記憶が戻ってしまえばきっと何もかも変わってしまう。一緒に暮らすこともなくなってしまう。希がそれを望んでいないとしても私にできることは無理にでも現状維持するしかない。奪うって決めたから。これからのことを考えていたら再び着信が鳴った。にこはまだ伝え足りなかったのかもしれない、確認せずに通話ボタンを押した。

「えり、」

 甘く甘く囁く声。もうこの電話はとらないと決めたのに。

「絵里の声がききたい」 「もう連絡しないで」 「どうして冷たくするの?」

 やめて。もうやめて。あなたの操り人形にはもうなりたくない。他人の物語を紡ぐのはもうやめたの。

「戻ってきて」 「それはできない」 「愛してる」 「私はもうなんとも思ってない」

 かすかにインターフォンの音が小さく聞こえた。

「私から離れられるの?」

 しばらくして再びインターフォンが鳴る。リビングにいる希が「ちょっと待ってな」と玄関に声をかけている。

「ねえ、もしかして誰か家にいるの?」

甘く冷ややかな声をきいた瞬間、持っていた携帯をベッドに放り投げた。勢いよく寝室を飛び出して希の元へ向かう。

「のぞみっ」

 玄関のドアの鍵を開けようとしている希の手をしっかりと掴む。

「えりち? なんかお客さんみたいなんやけど」 「出なくていいから」 「でも」 「お願いだから…っ」

 声を張り上げたら希が私に掴まれた腕を静かに降ろした。ドア越しに名前を呼ばれたような気がして体が硬直する。そのまま無言のまま玄関の前て立ちすくんでいたら、足音がドアから遠ざかっていった。それから一気に緊張がとけてそのままへたり込んでしまった。体の震えが止まらない。

「えりち」

 顔を上げて希の方を見れば、困っているような戸惑っているような複雑な顔をしていた。

「きいてもええ?」

 希がそっと膝をついて隣に座り込んだ。肩に手を置かれて希の手のひらの温もりが伝わってくる。

「いややったら、無理して言わんでもええから」

 深く息を吸い込んで、ゆっくりと時間をかけて吐き出す。

「優木あんじゅ」 「え?」 「ベストセラー作家で、私の昔の恋人よ」

 震える体を自分で抱きしめながら私は懺悔するようにすべてを語り出した。

 私はあんじゅの代わりに小説を書いていたの。好きだったから。  あの人のために要望通りのものを書いたし、小説がたくさん売れればどんどん有名になってあんじゅが喜んでくれるのがなによりも嬉しかった。でもあんじゅは私自身ではなく私の小説しか見なくなって一時的にスランプになった時、バレエで結果を残せなくて私に失望したお祖母様と同じ目をしたの。それから思うように書けなくなった私に手を上げるようになって、そこで完全に愛が失われてしまった。その時やっと気づいたの。  誰かの期待に必死に応えて自分で自分の首を絞めていた。誰かのせいにして私の意思はどこにもなくなっていた。

 一息に言葉を吐き出して、そして沈黙を噛み締めた。私にはまだ懺悔することがある。

 でもね、あんじゅの小説を書いたお金で私は今暮らしているの。そのお金で希と一緒に暮らして偉そうに振舞ってる。自分の立場を利用して希の気持ちを無視して踏みにじってる。おかしいでしょう。希にやってることは、自分がされてきたこととなにも変わらないの。馬鹿みたいでしょう。

 口に出したらなんだか笑えてきた。希のことなんてなにも考えてなかった。

「えりち」

 全部懺悔したあと、黙ってきいていた希が静かに口を開く。

「最低でしょう。でもこれが私」 「えりち」 「お金ならいくらでも渡すから出て行くといいわ」 「えりち、話を」 「もう、同情や義務で抱かれてくれなくてもいいから」

 ぱしん、と乾いた音がして頬に熱を感じた。私を見つめる希は頬を打たれた私よりも悲痛な顔をしている。

「お願いだからきいて」

 希がしがみつくように強く強く私を抱きしめる。

「記憶がないままでもうちはそれでええから。えりちとこのまま一緒に暮らしたい」

 好き、と耳元で囁かれた。

 まだ朝焼けが空を染め上げる前、少しずつ一日が始まる音がそこかしこから聞こえはじめる時間帯。ゆっくりと意識が覚醒していくのを感じた。仰向けのままぼんやりとクリーム色の天井を見つめる。だんだんと頭がはっきりしてきて両腕を頭の上へとあげて大きく伸びをした。

「ん、……えり、ち?」 「起こした?」 「ううん、ええの」

 赤い印があちこちに刻まれている白い肩がシーツからはみ出していて寒そうだから、シーツごと希を包みこんで抱きしめた。

「あったかいなあ」 「うん」

 すこし眠そうに目をこすりながら胸にすり寄ってくる希はいつもより子供っぽくて、そのままそっと額にキスをした。

「なあ、えりちが書いてる小説、書き上がったら最初に読ませてくれん?」 「急にどうしたの?」 「えりちの書く物語やから。読んでみたいんよ」

 優しく目を細めてそう告げる希の言葉に胸が温かくなる。

「書き上げたら最初に見せるわ。それまではまだだめ」 「うん。楽しみやね」

 私のことで嬉しそうに笑ってくれる希が愛しくてたまらない。そっと手をのばす。

「またするん?」 「だめ?」

 シーツの中で腰をさらりと撫でたら、ぴくりと動いて希が照れたようにはにかんだ。

「うちばっかりずるいやん」

 希がそう言って私が着ていたスエットを上に押し上げようとするからその手を掴んだ。

「私はいいわ」 「でも」 「希にさわりたい」

 腰から下へと柔らかな太ももの感触を指先だけを使ってなぞるように何度も往復させて堪能する。

「そんなさわりかた…なんか、やらしい」 「いやらしくないと、こんな触り方、できないわ」

 反応をうかがうように見つめれば案の定、希は枕に顔をうずめて表情を隠した。そんなことをしてもただ私を煽るだけなのに。こっちを見てほしくて枕の横に手をつけば希が顔を半分だけ覗かせて真剣な顔で私を見つめる。すこし戸惑って口を開く。

「えりちは、いつも、服着たままやね」

 顔を近づけようとしたていた動きが止まる。心臓の鼓動が早くなり思わず目をそらした。

「裸になるの、いやなん?」

 別にそういうわけじゃない。ただ純粋に、肌と肌を、温もりを共有するのがこわい。

「いやじゃないわ」

 いやではないの。ただ、

「ごめん、なさい」

 言葉にできない。きっと希を傷つけてしまう。

「ええんよ。うちはそれでも好きやから」

 どうしてそんなに簡単に口にできるの?  こわれないようにそっと手を伸ばして希の柔らかな頬にふれる。じっと私を見つめる目はとても澄んでいた。 「のぞみ、」 「うん?」 「のぞみ」 「うん」

 懇願するように名前を呼んだ。

「あのね、」

 優しく微笑んでくれる大切な人がちゃんとここにいるのに、まるで幻みたいに実感がなくて全部夢なんじゃないかと疑ってしまう。

「えりち?」

 あのね、すごくしあわせなの。好きって言われてうれしかったの。

「私も、」 「うん」

 ちゃんと伝えたいの。

「私もね、」 「うん」

 私も希が好きなの。

 涙とかすかな嗚咽ばかりが漏れて大切なことがちゃんと伝えられない。想いは通じ合っているはずなのにどうしても口にすることができない。零れ落ちた涙が希の頬を濡らしていく。

 希が泣いているみたい。希を泣かせてしまうかもしれない。

 奪おうとさえした幸せが自分の手の中に収まってしまえば、次はその重みに耐えられなくなって手放そうとしてしまう。

「えりち」

私は幸せになっていいの? あなたを幸せにできる?

 音乃木坂出版はあまり規模は大きくはないけれど作家の気持ちを尊重してくれる腕のいい担当編集が多いと業界でもそれなりに評判がいい。そんな出版社の文芸編集部に、あんじゅのゴーストライターとして活躍していた私を拾ってくれと説得してくれたのはにこだった。

「で、順調に書けてんの?」 「ええ」

 黙々と読書をしたり談笑をしたりと客それぞれが各々の時間を過ごして、ちらほらと席が埋まっている純喫茶の奥のテーブルで、にこと膝を突き合わせている。

「どうせまだどんな内容かすら教えてくれないんでしょ」 「まだ、迷ってるの。どういう物語にしたいのか」

 私はブレンド、にこはミルクティー。最後の一口をゆっくり飲み干してソーサーに戻せばカチャリとカップの乾いた音がした。

「べつにいいわよ。見守るわよ。口出しは一切しないからあんたの好きなように書けばいいわ」 「ごめん」

 にこが小さくため息をついて呆れたような困ったような顔をした。

「あのね、腐れ縁を舐めてもらっちゃ困るわ。あんたに才能があるのは知ってるしだから書いてもらいたいのよ。それに、あんたも自分のこれまでに折り合いつけたいでしょ」 「あんたあんたって、言わないで」

 素直に気持ちを返せない自分がにこを呆れさせていることは知っているけれど、それでも確信に触れないでいてくれるにこに甘えさせてもらう。きっとお互いに不器用だ。

「絢瀬絵里。ねえ絵里。わかってんの絵里。にこが仕事仲間として友達としてファンの読者として絵里の物語を高く買ってんだからおもしろいもの書かないと許さないわよ」

 にこが不敵に笑うから、すこしだけ肩の力が抜けたような気がした。

 帰り道、希の笑顔を思い出していつもの花屋に寄る。

「いらっしゃいませ。あ、えりさん」

 店長の花陽が柔らかく挨拶をしてきた。店内を見渡せばいつも元気な凛がいない。

「凛ちゃん、学校でたくさんレポート出されちゃったみたいで今日はお休みなんです」

花 陽がすこしさみしげな表情をして言うからすこし苦笑してしまう。

「今日もあのお花ですね」 「ええ、お願い」

 すっかり常連になりなんだか気恥ずかしくて近くに生けてあった名前のわからない花をじっと見つめた。

「あ、そういえば。希さんを昼間見かけましたよ」 「そう」

 スーパーにでも行っていたのかもしれない。今日の夕飯はなんだろうと思考が飛びそうになる。

「誰かと一緒に歩いてて声かけられなかったんですよね」

 花陽のその一言で現実に引き戻された。

「どんな人と一緒だった?」

 努めて冷静に何気なさを装う。

「うーん、遠くにいたからよく見えませんでした。もしかしてお知り合いでしたか?」 「そうだといいわね」

 笑顔で返したつもりだけど、もしかしたらひきっつていたかもしれない。花束を強く握り締めないように努めながら急いで帰宅した。

「今日スーパー行ったらな、駐車場に仔猫がいて危うく持って帰りそうになったんよ」 「そう」

 黙々と箸を動かす私に不安げな視線を寄越す希を無視する。

「それとな、昨日えりちがデミグラスソースのハンバーグが好きって言ってたから、今日作ってみたんやけど、」 「ほかには?」

 ゆっくりと咀嚼する。どろどろと纏わりつく黒い感情をひたすらに咀嚼して咀嚼して咀嚼しているのに消化不良でどうにかなってしまいそうだった。

「今日はほかになにがあったの?」 「えりち、どうしたん?」

 希がすこし怯えた目で私を見るから勢いよく立ち上がって箸を床に叩きつけた。

「今日だれと一緒に歩いていたの? なにがあったの? なにか思い出したの? 私に言えないこと?」 「ちょっと待ってえりち、」

 詰め寄る私から逃げるように希が立ち上がったから冷蔵庫まで追い詰めた。

「もう私と一緒にいたくない? それとも飽きた? 嫌いになったの?」

 そのまま希を冷蔵庫に押しつけてロングスカートの裾に無理やり手を入れた。

「えりち、昼間のは、」 「好きって言ったくせに…っ」

 お気に入りだと言っていた薄ピンクの下着を太ももまで引き下げて脚の付け根に強引に手をあてがう。

「女の人に、道をきかれたから…っ……わかる範囲で、案内しただけなんよっ」

 希が私の肩に手をおいて切実な顔で私を見つめる。なんでもないことだと思って言わなくても言いと判断したのなら大きな間違い。希のことならなんだって知りたい。知っておきたい。

「なぜもっと早く言わないの? どうして不安にさせるの? 些細なことでも言ってほしい。大事なことも伝えてくれないんじゃないかって思うじゃない…っ」

 指先で入り口を探ればそこはすこしだけ湿っていた。

「こんな状況でも感じて、希はだれでもいいの?」 「っ…ん、…はぁ…っ……」

 ゆるゆると突起をなぞればすこしずつ愛液が溢れてきて、待ちきれずそのまま強引に2本入れて掻きまぜた。

「んっ…ん…ふ、ぁ……ぃっ」

 希がかすかに顔を歪めたのに気がついて、動かしていた指を引き抜けば愛液に赤が混じっていた。指に絡みついている血液は中が切れているのか痛々しい量で、一瞬で頭が冷える。こんなになるまで酷くしたつもりはなかったのに。どうすることもできずに立ちすくんだ。結局私は希をきずつけてしまう。

 どうしよう。どうしよう。どうすれば、

「えりち、汚してごめんな」

 乱れた衣服でボロボロのまま、血のついた私の手をとって希が謝る。

「のぞ、み……」 「うちがえりちに心配かけたから。不安にさせてしもうたから」

 なんでそんな、

「そんな……ちが、」 「えりちを悪者みたいにさせて、ごめんな」

 どうして希が謝るの? どうして私を責めないの?

 これだけ希を好き勝手に振り回して傷つけているのにあなたはどうして、

「なんだってするから。うちを許してほしい」

 私の手をとったまま希は跪いて、ただ泣くしかできない私に許しを乞うた。

 記憶が戻らなくてもいいと言ってくれたあなたの覚悟に私は報いなければならないのに、私はその手を握りしめることがどうしてもできない。持て余してしまうほどあなたが好きなのに。

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