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わたし (だけ) の 青夏

  • violeet42
  • 2017年2月17日
  • 読了時間: 2分

印象党の のぞえり漫画「わたしの青夏」の掌編版。内容は漫画と一緒。

(とくべつはざんこく)

 葉と葉の間から射し込む木漏れ日ですら容赦がない。擬音をつけるならギラギラ。空がぐっと近くなって太陽が自分の目が届くものすべてをじりじり焦がしてそれから蝉が鳴いて土と草の匂いが濃くなる。それが夏。馴れ馴れしい夏。いや、ちがう。馴れ馴れしいのはうちやった。いつも涼しい顔してるあの子がおでこや首筋に汗をいっぱいかいていたから、思わずハンカチを差し出した。ちょっと驚いた顔をして苦笑。ごめんなさいって言って受け取ったから、ごめんなさいって言われるような距離感でしかなかったから悔しくてもどかしくて躍起になった。

 三つの夏、重ねるごとにあの子との距離を詰めて夏に弱いあの子の汗を拭うのはうちの役割になった。隣にいることが許されて、ごめんなさいがありがとうになっていつの間にか当たり前になった。三度目の夏、うちが手に入れた成果。

「あーつーい」

「くっついたらもっと暑いやろ」

「でも希が拭ってくれるでしょ」

 白い肌に金色の髪の毛がしっとりと汗ばんではりつく。ハンカチで拭えば笑いかけてくれてじっと見つめる瞳がうちを映せば、青に飲み込まれて夏の空なんてどうでもよくなる。

「来年は、」

 どうするん? なんて聞けるわけないやろ。

 はっきりとなにかに決断を下すことはむずかしいから。とてもおそろしいから。夏の青に心を揺さぶられなくなる日がくるまで、特別じゃなくなる日まで、いつかきっとそういう日が来るから。

 近づくたびにもっともっとほしくなって果てがないものだなんてだれも教えてくれなかった。わかってたら近づかなかったのに。知りたくなんてなかった。

 頬を伝うひとしずくが滴って地面を濡らした。こんなものは汗と変わらない。

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