わたし (だけ) の 青夏
印象党の のぞえり漫画「わたしの青夏」の掌編版。内容は漫画と一緒。 (とくべつはざんこく) 葉と葉の間から射し込む木漏れ日ですら容赦がない。擬音をつけるならギラギラ。空がぐっと近くなって太陽が自分の目が届くものすべてをじりじり焦がしてそれから蝉が鳴いて土と草の匂いが濃くなる...
さみしがりやはだれのせい?
大きなプロジェクトを任されて私も一人前の社会人として認められるようになったと実感できるようになった。なによりも家のことを全部やってくれて私を癒してくれる希のために、その分私が会社でしっかりと働いて胸を張って希の隣にいられるように頑張れるのはとても誇らしい。 「ただいま」 ...
たったひとつの月になりたい
※援助交際ネタ注意 「こんなにもらってええの?」 「ええ、いつも楽しませてもらってるから」 そういってうちのむき出しの肌に一つだけキスを落として皺ひとつないシャツをサラリと羽織る絵里さん。 「今度は希ちゃんがひとりでしてるところが見たいわ」...
事実は小説よりも恥ずかしい
放課後、帰りのホーム―ルームの挨拶とともに机の横にかけていた革鞄をひっつかんで急いで駆け出す。下駄箱で靴に履きかえることさえもどかしく感じるほど心はもうあの本屋さんへ向かっていた。校門の坂道を駆け下りて細い小道へと入れば急に周りの雰囲気が変わって好奇心をくすぐられる。目的地...
先生が教えてあげる
家庭教師の希と教え子の絵里 家族が出払っている家の中、いつもなら聞こえてくる生活の音が聞こえない代わりにカリカリとシャーペンがノートに文字を綴る音と、 「る、らる、す、さす、しむ」 私の隣でまるで呪文のような古典の助動詞を甘い声で読み上げる先生。 ...
嘘も本当も、もう関係ないの
ヒモの絵里ちゃん 日が沈み始めた頃、うちは夜の支度をする。化粧をして着飾ってお客さんの隣で微笑めば、本音と建前がぐちゃぐちゃに混ざり合って欲望だけが残る。お客さんをその気にさせて夢を見させてあげればお金がもらえる。そんな単純明快で軽薄な関係をうまく泳ぎまわることができれば、...
泣いてしまえるならいっそ、
ホステスの希と常連客の絵里 「はじめまして、希です」 妖艶にきらめく紫色のドレスを身に纏ったその人を見た瞬間、ああこれが落ちるという感覚かと他人事のように感じた。 「絵里さん、今日も来てくれたん。うれしいわあ」 「あの、これ」 ...
私を使い捨ててもいいから
人妻の希と大学生の絵里 「次はいつ会える?」 ああ言うんじゃなかった。私が少しでもラインを越えようとすると希さんはいつもわかりやすく困った顔をする。ひどい。ひどい。希さんは卑怯だ。 「うちから電話するよ」 (次はどのくらい待てばいいの?)...
運命じゃないひと
希ちゃんがふいに絵里ちゃんの名前を呼んだ。 「なあに?」 「ちが、……ごめんなさ…っ、」 よりによってセックスの時に呼ばなくてもよかったのに。ああ、セックスだから呼んだんだよね。 「もっと呼んでくれる?」 「ことり、ちゃ……っ…」...
両手いっぱいの彼岸花
校庭の片隅で赤い花が風に揺れていた。幻みたいに、陽炎みたいにゆらゆらと揺れていて視界に入った途端に目が離せなくなって、足を止める。 蝉があちらこちらで鳴いている。首筋に汗が伝う。 「さわっちゃだめ」 じりじりと焦がれるような暑さに浮かされながらぼんやりと花に手を伸ばそう...