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両手いっぱいの彼岸花

  • violeet42
  • 2016年11月15日
  • 読了時間: 2分

 校庭の片隅で赤い花が風に揺れていた。幻みたいに、陽炎みたいにゆらゆらと揺れていて視界に入った途端に目が離せなくなって、足を止める。  蝉があちらこちらで鳴いている。首筋に汗が伝う。

「さわっちゃだめ」

 じりじりと焦がれるような暑さに浮かされながらぼんやりと花に手を伸ばそうとしたら、真姫ちゃんがそっとあたしの腕を掴んだ。

「彼岸花には毒があるから」 「ふうん」 「それに不吉な花よ」

 真姫ちゃんが嫌悪感を含ませた声音でそっとつぶやく。あたしの腕を掴んだ手が汗ばんでいた。ぎゅっと強く掴まれて腕を引かれる。

「よそ見しないで」

 そんなに小さく囁くなら、恥ずかしいなら、言わなきゃいいのに。怒りで照れ隠ししないで、普通に言えばいいのに。  じっと真姫ちゃんの目を覗き込んだら気まずそうに逸らされた。 「こっち見ないで」 「真姫ちゃん、めんどくさい」 「うるさい」

 わかりやすいくらいすねて不機嫌なのに、あたしの腕を離そうとしない真姫ちゃんは本当にめんどくさい。

「あの花、」 「なに?」 「真姫ちゃんとおんなじ色だったから。よそ見なんてしてないわよ」

 そっと真姫ちゃんに掴まれた手を解く。

「彼岸花と一緒なんて、なんか、いや」

 自分のスカートの端をぎゅっと握った真姫ちゃんが俯いて表情を隠すからそっと息を吐いた。

「だって、有毒じゃない」  責任をとってほしい。熱を秘めた赤は危険な赤。

 蝉の鳴き声が遠のいた。首筋に流れる汗はそのままに。あつい。馬鹿みたいに。

 ゆっくりと抱きしめたら、真姫ちゃんが身じろいで小さくうめいた。  幻でも陽炎でもないただの女の子は一輪だけのあたしの花。

「……ずるい」 「うるさい」

 甘い毒が全身にまわって頭がくらくらした。

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