嘘も本当も、もう関係ないの
- violeet42
- 2016年11月15日
- 読了時間: 2分
ヒモの絵里ちゃん
日が沈み始めた頃、うちは夜の支度をする。化粧をして着飾ってお客さんの隣で微笑めば、本音と建前がぐちゃぐちゃに混ざり合って欲望だけが残る。お客さんをその気にさせて夢を見させてあげればお金がもらえる。そんな単純明快で軽薄な関係をうまく泳ぎまわることができれば、あとは心がだんだんと鈍く麻痺していくから痛みなんて感じない。ご褒美をくれればいくらでも偽れるの。お客さんだって本当はわかっているはず。
「ねえ、希」
男たちに夢を売るために鏡の前で夜の支度をしていたら、絵里がうちの背中にそっと寄り添う。寝起きの掠れた声で名前を囁かれればそれだけでうちは絵里に心をそっと預ける。
「出掛けたいの」
しなやかな腕が絡みついてむき出しになったうなじにそっとキスを落とされる。ゆるやかに、けれど確実に全身にまわっているこのあまい毒のせいで、頭の奥底で鳴り響いている警鐘がよく聞こえない。
「ねえ、お願い」
最後にとどめを刺されて、財布に手を伸ばす。あなたの心を紙切れで繋ぎとめられるなんて、なんて単純明快で軽薄な関係なんだろう。ご褒美をくれればいくらでも本音を押し殺せるの。うちだって本当はわかっている。
「あいしてるわ」
紙切れを差し出せば甘い囁きとともにするりと体の拘束が解かれる。ぬくもりの消えた背中は冷えていくだけ。
使い古されてボロボロになったやり方で籠絡されているのを知っている。ポケットティッシュみたいにあちこちに愛を配っているのを知っている。
あなたのためならなんでもするから。ほんとうの愛なんてほしがらないから。せめて偽りの愛まで消えてなくならないで。
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