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言えないわがまま

  • violeet42
  • 2016年11月14日
  • 読了時間: 3分

 校門を出てえりちにさよならを言うまでの15分間。  このたった15分間をガラスケースに入れて永遠に保管できればいいのに。

 生徒会の仕事をすべて終えて、えりちと一緒に校門をくぐりぬける。空を見上げれば山吹色に染まる空。優しい色。今日感じた楽しいことも悲しいこともすべて包み込んで認めて癒してくれる色。いつもみんなを惹きつけてやまないあの子にぴったりな色。

 けれどもうすぐ夜がくる。音も立てずに忍び寄って少しずつ空を紫へ闇へと染め上げる。夜はいつも孤独を孕んでいて、まるでそれは、

「のぞみ」

 ぐるぐると考えていたらいつの間にか歩調が遅くなっていた。少し先でうちを待つえりちに視線を合わせる。きらめきを増した黄金色の髪が風になびいて、透き通った空がうちを見つめる。

 山吹色がえりちをやさしく染める。山吹色がえりちをやさしく染めるから。山吹色がいつでも迷いなくえりちを救い出す。夜はいつでも間に合わない。

「のぞみ?」

 えりちが引き返して近づいて、うつむいたうちの顔をのぞきこんだ。早く顔を上げなければいけないのに。なんでもないんよ、って笑ってごまかさなければいけないのに。それができないのは、言えないわがままを抱えているから。

 ほんとうは、うちが救い出したかった。ほんとうは、うちだけを見てほしい。  叶えられなかった願いはただのわがまま。

「のぞみ、どうしたの?」

 どうしたんやろう? どうしたいんやろう? わがままを持て余して静かに途方に暮れている子供みたいで、

「のぞみ」

 4度目に呼ばれた名前がとてもとてもやさしくて、ゆっくりと顔を上げたらえりちの曇りのない空がうちを映していた。

「私と一緒にいて楽しくない?」 「そんなこと、ないよ」 「じゃあ、のぞみにさみしい思いさせてる?」 「それは、」

 ちがう。ちがうの。これはうちのわがままやから。

「約束して」

 えりちがそっとうちの手をとって小指と小指を絡ませた。

「指切りげんまん。嘘ついたら、我慢したら、」 「したら?」 「ほんとうのことを言ってくれるまで、のぞみを離さないわ」

 小指同士をつないだまま歩き出したえりちの頬がほんのり赤くて、きっと夕暮れのせいじゃない。うちのせいだから。 ぎゅっときつく小指を絡めた。

「今日はのぞみを家まで送っていってもいい?」 「そんなに心配せんでも、」 「15分で今日ののぞみとお別れするのは、さみしいから」

 少しずつ日が傾いて、紫が空を染め上げる。ゆっくりとゆっくりと空を包み込む。

「見て、空が綺麗」

 少しはにかみながらそう言って空を見上げたえりちの横顔は泣き出したいくらい美しくてどうしようもなくて。

「えり、」 「え?」

「好き」

 もう15分間だけを永遠みたいに大切にするのはやめる。  あなたの隣に寄り添う時間は自分でつなぎとめるから。

 言えなかったわがままは叶えたい願いに変えた。

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